自衛隊に入ると、普通に生活していたら考えられないような経験を積むことになります。
それは入隊と同時に始まり、訓練が進んでいくと、世間一般の人が聞くと絶句してしまうような内容まであります。
それが自衛隊の任務であり、自衛隊の特異性ともいえるでしょう。
その中でもガスマスク訓練はかなりの「特異性」あり。
もういじめじゃないか?って思ってしまうくらい。笑
それくらい強烈な体験は、一生忘れない「楽しい記憶」として残るんですね。
今回は、新隊員でのガスマスク訓練についての内容です。
陸上自衛隊前期教育でのガスマスク訓練
陸上自衛隊に入隊すると様々な訓練を受けるようになります。
その中でもちょっとだけ特異なものがガスマスク。自衛隊ではガスマスクを使用した訓練のことを「特殊武器防護」と呼ぶ。
さて、私が前期教育で学んだガスマスクについては以下となります。
・化学戦についての概要
・ガスマスクの使い方、つけ方(装着方法)
・マスクをつけて走らされる
・催涙ガス実体験
今回は「マスクをつけて走らされる」と「催涙ガス実体験」についてお話しましょう。
一生の思い出①:ガスマスクをつけて走らされる
自衛官でガスマスクが好きな人はいません。なぜならかさばるし、鬱陶しい存在だから。
ましてやマスクを顔につける(装面:そうめん)なんてうざいったらありゃしない。
なんといってもガスマスクをつけると呼吸がしづらくなるから。
あなたも風邪防止やインフルエンザ予防でマスクをしますよね。1枚つけただけでも声がくぐもり、ちょっとだけ息苦しくもなる。
そんなマスクを2枚重ねて使用したら?

ここからはあなたの想像力に期待しますが(笑)、ガスマスクは猛毒の微粒子が呼吸器に侵入するのを防ぐアイテム。
イメージ的には市販のマスクを6~7枚重ねて使用してる感じともいえるでしょう。
つまり、結構強めで呼吸しないと息が吸えないわけですよ!
そして前期教育を受け持つ教官や班長(先輩隊員)たちは、当然のごとくその苦しさを知っているわけですね。
そして鬼の号令をかけてくるんです・・・。
おらぁ!マスクを外すんじゃねーッ
ある日の訓練時。突然ガスマスクをつけろという指示が出ました。
そして信じられない号令が発せられた。
全員、走れー!
距離にして500mくらいだったと記憶してます。これはキツかった。吸える空気が制限されているから、走りながら溺れている感じだった・・・。
息苦しさに耐え切れずマスクを外そうものなら班長たちの怒号が飛んでくる。
おらぁ!マスクを外すんじゃねー
教育を受けている新隊員にとって班長の怒号は、ある意味猛毒ガスよりも怖い。
こうやって私たち新隊員はガスマスクの特性について学んでいきました。
でもこれで終わらないのが前期教育。
続いて、さらなる思い出となった訓練を紹介しましょう。
一生の思い出②:催涙ガス実体験
前期教育中のある日、班長達から洗面器とタオルを用意するよう指示を受けました。
洗面器、タオル、ガスマスクを持って移動し、とある部屋の前に到着。持参した洗面器に水を入れ、そのまま地面に放置。
新隊員である私たちはガスマスクをつけ、部屋の中へ。
まるで蚊取り線香を大量に使用している感じの室内でした。でも、とくに問題なしって感じなんですね。ちょっと視界が悪い程度の。

たいしたことないな、と思ってたときに班長から指示が出ます。
「よし、マスクを外せ」
マスクを外して10秒後くらいからじわりじわりと目、鼻の奥、喉に痛みがやってきました。さらに顔面の皮膚が焼けるように痛くなる。
そのうち目なんて開けていられなくなり、呼吸をすると鼻の奥から喉までが焼けるように痛い!
そう、催涙ガスは粘膜や皮膚に強烈な刺激を与え、ターゲットの自由を奪うガスなんですね。(※健康に影響はない)
涙、鼻水、よだれを垂れ流したゾンビ状態の私たち新隊員。「はやく部屋から出たいよ~」、と嘆いているところに班長から容赦のない指示が出る。
よーし、みんなで歌うぞー!
全員(もちろん班長も)涙、鼻水、よだれを垂れ流しにしながら当時流行していた歌を丸々合唱。
ようやく部屋から脱出しても、そう簡単には痛みはなくならないんです。そんな私たち新隊員の状態を、教官や班長たちは爆笑しながら写真を撮りまくる。
この写真が数年後には忘れられない良き思い出となるわけなんですが。
事前に用意した洗面器の水で目、鼻の奥、喉を洗いまくりました。
ガスが充満した部屋でマスクを外すことにより、マスクの効果を実体験する。こうして新隊員のうちから化学戦の怖さを学ぶわけです。
まあ、体験した者として言えば、新隊員のガスマスクとガス体験は一生忘れられない楽しい記憶となったことは間違いありません。
さいごに
以上、陸上自衛隊前期教育におけるガスマスク訓練についてのお話でした。
普通に生活していた高校生でしたが、自衛隊に入隊してから本当にかなり濃い経験を積むことができました。
何年、何十年たっても色あせない、楽しい思い出となっています。
これからもこの体験が、単なる「特異な思い出」であり続けることを祈りたいですね。
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