友人たちに言わせると、私の趣味である登山のやり方は「変わっている」そうです。
テントを持たず、山の中で野宿が基本。ときには真夜中であっても、ライト不使用で歩き続けたことも。
さすがに40代の今ではそこまではやりませんが、30代の頃の思い出です。
さて、なぜ私はそんな無茶な登山を趣味としたのでしょうか?
原因は自衛隊の訓練を経験してきたから、といえるでしょう。
私をそこまで「変人」に変えた自衛隊訓練。どれくらいキツかったのかをお話していきましょう。
目次
陸上自衛隊の地味できつい訓練:行軍
陸自訓練で隊員たちがもっとも嫌がるのが行軍(こうぐん)。
※防衛省公式では行進訓練という。
とにかく地味できつい。そのうえじわりじわりと鈍痛が襲ってくるし、その鈍痛が長時間続くのだから、嫌われる理由もおわかりいただけますよね。
なぜ行軍がきついのか。その原因ともいえるワースト3が以下となります。
第3位:ライト禁止の夜間移動
第2位:睡魔との戦い
第1位:肩に食い込む荷物の重み
隊員によって多少の意見の相違もありますが、概ねこんなところでしょう。上記3つは私自身の体験から出たワースト3なんですね。
では第3位からお話していきましょう。
第3位:ライト禁止!地獄の夜間移動
行軍とは歩くこと。
とはいえ、のろのろと数キロ歩いて終わり、というわけにはいきません。しかも歩くのは夜間で、ライトは一切使用禁止なんです。
歩く距離は20~60キロ、さらに100キロのときもありました。これだけの距離を歩いていると、下記のようにどんどん風景が移り変わっていきます。
舗装道路
↓
砂利道
↓
登山道
↓
道なし!(山の中)
舗装道路と砂利道まではまだ良しとしましょう。
容赦ないのは登山道、そして道のない山の中! 本当に容赦ありませんよね。移動は真夜中で、ライト禁止の状態。

行軍15キロ辺りからかなりの疲労も襲ってきます。
そんな状態で歩いているもんだから、地面がどんな地形をしているのかなんて、足をつくまでは分かりません。
大きな石があったり、木の根がボコッと出てたり、穴があったりと、真夜中の大自然はとにかくストレスを与えてくるわけです。
そのため小さな障害物があるたびにこう感じることに。
イライラ、イライラ、イライラ・・・。
発狂も絶叫もできず、ただただ黙々と歩き続けるのみ。山地移動中はずっとこんな感じでした。
ここへワースト第2位が追い打ちをかけてくるんですね。
第2位:睡魔との戦い
何度もお伝えしておりますが、行軍は夜間に行われます。
人という生き物は:
・暗くなったら眠くなる
・疲れ切ったら眠くなる
これが人間のあるべき姿でしょう。
ところが行軍は上記のあるべき姿を完全無視してくるんですよ。ホント、人間の尊厳ってどこへやら。
あれれ?俺のビールはどこへいった?

さて、夜間のライト使用は禁止なので、真っ暗な山の中では前を歩いている隊員の「ボワッと見える影の輪郭」と「音」を頼りに歩き続けることになります。
上下に揺れる輪郭をジッと見て、徒歩の音を聞き続けていると、それらがだんだんと子守唄に変わっていくことに。
そのうち・・・。
あれ!?なんで俺は居酒屋でビールを?ま、いいか~、いただきまーす。
ドンッ!
前を歩く隊員の大きなリュック(背嚢・はいのう)にぶつかってハッと目覚めるんです。
そう、疲労困憊と真夜中という暗闇のため、いつの間にか眠り込んでしまうんですね。
なんと夢を見ながらも歩き続けるんですよ! 居眠り運転ならぬ居眠り行軍。
夜間はずっと同じことが繰り返されることになる・・・。
でもキツさはここで終わりではありません。さらなる追い打ちをかけてくるから行軍はたまったものじゃない。
第1位:肩に食い込む荷物の重み
行軍は陸自における戦闘訓練のひとつ。
そのため手ぶら・身軽で歩くわけではありません。銃を含む完全武装で、さらに重い背嚢(はいのう・大型リュック)を背負う。
この背嚢がクセモノ。行軍が始まって30分くらいで「自己主張」してくることに。
背負いバンドが両肩にググっと食い込み、絶えず鈍痛が走る!
この鈍痛は味わった者しかわからない、としかいえません。学生時代に山岳部だった人や、本格登山が趣味の人なら納得いくのではないでしょうか。

自衛隊を去ってからひとつ思い出があります。
重い荷物を背負って歩くことに慣れてしまっていた私。ある日、私がたくさんの荷物を持っていたので友人が気を使ってくれ、私のリュックを背負ってくれました。
そんなに重くしたつもりはなかったのですが、その友人は数分で「ギブアップ」って言いました。笑
さて、話をもどしましょう。
わあ~!空を飛んでいるようだ
行軍中は休憩がちょくちょくあるんです。
貴重な休憩時間になったら、真っ先に「クセモノ」の背嚢を下します。
そのときの解放感といったら!
肩に食い込んだ背負いバンドがなくなり、肩の筋肉に再循環する血液を本当に感じれるくらい。
さらに自分の体重を感じなくなるんですよ。フワフワと空中に浮いている感じといいますか。
あの一瞬だけは最高のご褒美。
と、同時に隊員たちは死んだようにバタバタと倒れだします。もう疲労困憊で、少しでも体を休めたいから。
数秒で眠りに落ちる経験をしたのはその時くらい。
そして休憩時間が終わりに近づくとまた、クセモノ背嚢を背負い、鈍痛に耐えながら黙々と歩き続けるのでした。
さいごに
以上が陸上自衛隊の訓練でも、もっとも隊員に嫌われている行軍のお話でした。
真夜中にライトもつけずに山の中を歩く。安全登山のルールを完全無視ですが、いざという時に国民を守るため、自衛官は日々「危険といえる」訓練を行っておく必要があるということなんですね。
まあ、自衛隊訓練のおかげか、登山が私の趣味となっていますが。
40代になっても体を鍛え続けているのは、あの自衛隊時代があったからだと、感謝しています。
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